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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2576号 判決 1968年7月05日

大阪市東住吉区田辺東之町六丁目一九番地

原告 田辺信用組合

右代表者代表理事 矢野重夫

右訴訟代理人弁護士 米田実

小沢礼次

住居所不明

(最後の住所)佐賀県武雄市西川登町小田志一七、四六五番地

被告 小寺一正

豊中市庄内栄町二丁目三〇番地

被告 池上一郎

右訴訟代理人弁護士 南政雄

右同所同番地

被告 楊進平

右訴訟代理人弁護士 安富敬作

山田正

安藤猪平次

大阪市南区九郎右エ門町六七番地

被告 森田寛

右当事者間の昭和四一年(ワ)第二五七六号家屋明渡等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告小寺は原告に対し別紙目録記載の不動産について、昭和四〇年一二月一一日付代物弁済による大阪法務局豊中出張所昭和三九年三月三日受付第四五四六号所有権移転請求権保全の仮登記に基く本登記手続をせよ。

被告池上、同楊、同森田は右本登記手続に同意せよ。

被告池上、同楊は原告に対し別紙目録記載の不動産を明渡し、被告池上は昭和四一年一月一〇日から右明渡済まで一ヶ月金四五、〇〇〇円、被告楊は昭和四〇年一二月一二日から右明渡済まで一ヶ月金八〇、〇〇〇円の各割合による金員を各支払え。

原告の被告小寺、同池上に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告小寺との間において生じた分はこれを二分し、その一を原告、その余を被告小寺の各負担とし、原告と被告池上との間において生じた分はこれを三分し、その一を原告、その余を被告池上の負担とし、原告と被告楊、同森田との間においてそれぞれ生じた分は、被告楊、同森田の各負担とする。

この判決は主文第三項の金員支払い部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一、原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨および被告池上、同楊、同小寺は原告に対し別紙目録記載の不動産を明渡し、昭和四〇年一二月一二日から右明渡済まで連帯して毎月金八〇、〇〇〇円の割合による金員を支払えとの判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告池上訴訟代理人、同楊訴訟代理人、同森田は、それぞれ、原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担、との判決を求めた。

第二、原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、被告小寺との間に昭和三九年二月一二日、同被告との間の手形貸付等継続的取引契約を締結し、右取引により同被告の負担する債務につき、同被告所有の別紙目録記載物件(以下本件物件という)に対し根抵当権を設定すると同時に代物弁済予約の契約を締結し、右代物弁済予約につき同年三月三日大阪法務局豊中出張所受付第四五四六号をもって所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。

二、右代物弁済の予約は、右被告が右基本的取引契約から負担する債務を履行しないことを条件として契約されたもので、予約完結の意思表示をなすについては基本契約が存続するか否かを問わず、被告の債務不履行時において相当な債務額があれば右確定した額において予約完結の意思表示ができる趣旨であった。仮にそうでないとしても、原告は昭和四〇年一二月一一日到達の意思表示をもって被告小寺に対する右基本契約を解除し、なお重ねて昭和四一年一月八日右被告との間に同日付念書にもとづき、右基本契約の合意解除をした。

三、被告小寺は、事業不振のため、原告に対し金七、六五八、三三〇円の債務を負担して倒産したので、原告は、昭和四〇年一二月一一日到達の内容証明郵便により被告小寺に対し、右金七、六五八、三三〇円の債務のうち、同被告が原告に対し有する定期預金三、〇七五、五八二円、定期債権金一、二一八、七二〇円、普通預金七七、八八六円、以上合計金四、三七二、一八八円の債権とその対当額において相殺すると共に、残額金三、二八六、一四二円の債務について前記代物弁済予約にもとづき本件物件を右の代物弁済として取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をした。

四、被告池上は、本件物件について大阪法務局豊中出張所昭和四〇年一二月一六日受付第二九四八三号所有権移転請求権仮登記、同出張所同日受付第二九四八二号根抵当権設定仮登記、同出張所同日受付第二九四八四号停止条件付賃借権設定仮登記を有する登記上利害関係人である。

五、被告楊は、本件物件について右同出張所昭和三九年三月一七日受付第六〇二〇号根抵当権設定登記、同出張所同日受付第六〇二一号停止条件付賃借権設定仮登記、同出張所昭和四〇年四月二日受付第七一五二号根抵当権設定登記を有する登記上利害関係人である。

六、被告森田は、本件物件について右出張所昭和四一年三月一〇日受付第五五四七号仮差押登記を有する登記上利害関係人である。

七、次に、被告池上、同楊は、昭和四〇年一二月一二日何ら正当な理由がないのに無断で本件物件に入りこみ、被告小寺と共に共同して本件物件を占有している。尚被告小寺は自己の動産を本件物件内に存置させて本件物件を占有するものである。そのため、原告は毎月金八〇、〇〇〇円の賃料相当の損害を被っている。

八、よって、原告は、被告小寺に対し、本件物件の所有権取得に基づき主文一項同旨の登記手続を求め、原告の前仮登記の後順位登記名義人たる被告池上、同楊、同森田に対し右登記手続に同意することを求め、被告池上、同楊、同小寺に対し本件物件の明渡しと昭和四〇年一二月一二日から右明渡済まで連帯して一ヶ月金八〇、〇〇〇円の割合いによる損害金の支払いを求める、と述べた。

第三、被告池上訴訟代理人は

一、答弁として

原告主張の請求原因第一項の事実中、原告が、原告主張の各登記を経由した事実を認めるが、その余の事実は不知。

同第二項の事実は不知。

同第三項の事実中、被告小寺の倒産の事実を認め、その余の事実は不知。

同第四項の事実中、被告池上が、原告主張の登記を経由した事実を認める。

同第七項の事実中、被告池上が本件物件を占有している事実を認めるが、無権原の占有を争う。

二、抗弁として、

被告池上は、被告小寺より賃借権の設定を受けて本件物件を占有するものである。

と述べた。

第四、被告森田は、答弁として

一、原告主張の請求原因第一項ないし第五項の事実は不知。

同第六項の事実を認める。

同第七項の事実は認める。

二、本件物件は、原告の被告小寺に対する金五、〇〇〇、〇〇〇円の債権担保のために清算的な代物弁済の予約がなされたもので、原告は、右代物弁済に当っては本件物件を処分し、同処分金のうち、原告の債権の弁済を受けた残額金を他の債権者に交付すべきものである。本件物件は原告の債権額以上に高価であり、当然残与金を生ずるものであるから、同残与金は、被告森田の被告小寺の約束手形金一、五〇〇、〇〇〇円の債権の支払に充当するため森田に交付すべきであり、右交付あるまで、被告森田は原告の本登記手続に同意する義務はない、と述べた。

第五、被告小寺は、公示送達による適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第六、証拠≪省略≫

理由

一、(被告小寺に対する請求の当否)

≪証拠省略≫を綜合すると、原告は、被告小寺との間に昭和三九年二月一二日原告を債権者として、手形貸付、同割引、証書貸付、当座貸越契約(以下基本契約という)を締結し、右取引により生ずる被告小寺の債務を担保するため別紙目録記載の物件(以下本件物件という)につき債権元本極度額金五、〇〇〇、〇〇〇円の順位一番の根抵当権を設定し、同日、右取引により生ずる被告小寺の債務について(1)弁済期日に元金の弁済をしないとき、(2)利息金の支払を一回でも遅滞したとき、(3)その他右基本契約により期限の利益を失ったとき、以上を条件として本件物件を代物弁済としてその所有権を原告に移転する、原告が右物件を処分し、その処分価額が債務元利金に充たないときは、被告小寺はその不足金を原告に弁済する旨の代物弁済の予約をなし、右代物弁済の予約につき大阪法務局豊中出張所において昭和三九年三月三日同出張所受付第四五四六号をもって所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、原告は、被告小寺に対し右契約に基づき手形貸付を行ってきたところ、被告小寺は昭和四〇年一二月六日頃倒産し、原告に対する債務総額は金七、六五八、三三〇円に達していたこと、そこで原告は、右債権の弁済を受けるため、同被告が原告組合に預け入れていた定期預金三、〇七五、五八二円、定期積金一、二一八、七二〇円、普通預金七七、八八六円、合計金四、三七二、一八八円を対当額において相殺し、前記代物弁済の予約に基づき昭和四〇年一二月一一日被告小寺到達の内容証明郵便をもって残債権金三、二八六、一四二円の代物弁済として本件物件の所有権を取得する旨の意思表示をし、同日同物件の所有権を取得したこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によると、被告小寺は原告に対し原告の右代物弁済による本件物件所有権の取得を原因とし前掲仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすべき義務がある。

しかしながら、≪証拠省略≫によると、被告小寺は、倒産した昭和四〇年一二月六日以後本件物件を出て一時行方不明となり、翌四一年一月八日頃訴外那須計吉に連れられて原告組合に現われ、原告が本件物件を代物弁済のため取得し、自由に処分することを承認し、以来再び行方不明となっていることが認められる。右事実によると、被告小寺は、昭和四〇年一二月六日頃既に本件物件から立退き、以来同物件を占有し使用していないことが窺われるのであって、本件物件内に被告小寺の動産類が残存しているとしても、その動産の品目、価値の有無、保管場所等は不明であり、右動産の残存のみをもって被告小寺の本件物件占有を認めるに足る事由とはなり得ず、他に右占有の事実を認めるに足る証拠はない。

よって、原告の同被告小寺に対する本件物件の明渡しと、同被告の同物件の不法占有を理由とする昭和四〇年一二月一二日以降の賃料相当損害金の支払いを求める請求はいづれも理由がないというべきである。

二、(被告池上に対する請求)

原告が昭和四〇年一二月一一日被告小寺から本件物件を代物弁済により取得し、現にその所有権者であることは、前項において認定したので、ここにこれを引用する。

被告池上が、本件物件を占有する事実は同被告の自白するところであるところ、≪証拠省略≫によると、同占有は昭和四一年一月一〇日以降であることが認められる。

同被告は、右占有は本件物件の前所有者である被告小寺から賃借し、同賃借権に基づく占有である旨主張するけれども、これを認めうる証拠はない。

よって、被告池上は本件物件の不法占拠者として原告に対し同物件を明渡す義務がある(この場合、原告が本件物件につき所有権移転の本登記手続を完了するまでもなく、右不法占拠者に対する明渡義務が容認できる。)。

ところで、≪証拠省略≫によると、昭和四一年一月一〇日当時の本件物件の賃料は一ヶ月金四五、〇〇〇円であることが認められるので、被告池上は原告に対し、後記共同不法占有者たる被告楊と連帯して、本件物件の不法占有による賃料相当損害金として昭和四一年一月一〇日から右物件の明渡済まで一ヶ月金四五、〇〇〇円の割合による損害金を支払う義務がある。原告の被告池上に対する損害金請求は、右認定の限度において認容すべきで、その余の部分は失当として棄却すべきである。

三、(被告楊に対する請求)

被告楊は、原告主張の請求原因事実に対する答弁をせず、明らかに争わないので、同事実を自白したものとみなす。右事実によれば、原告の同被告に対する本件物件の明渡しと昭和四〇年一二月一二日から右明渡済まで一ヶ月金八〇、〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める本訴請求は正当であるから、これを認容すべきである。

四、(被告森田に対する請求)

原告が、被告小寺との間に原告主張の日、主張のような手形貸付等継続的取引契約を締結し、本件物件に対し根抵当権を設定し、同物件を目的とする代物弁済の予約をなし、所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、被告小寺が、原告から原告主張のような債務を負担したまま倒産したため、原告が、同被告の原告に対する原告主張のような債権と相殺したうえ、同被告に対し、残債権金三、二八六、一四二円の代物弁済として前記代物弁済予約の完結の意思表示をなし、原告主張の日右意思表示が右被告に到達し、同日原告が本件物件の所有権を取得したことは前記被告小寺との関係において認定したとおりであるから、ここにこれを引用する。

次に被告森田が、本件物件につき、原告主張の仮差押登記を有することは同被告の認めるところである。

被告森田は、右代物弁済の予約は精算的代物弁済の性質を有するから、本件物件の処分価額から原告の被告小寺に対する残債権を控除した残額金を同被告の債権者たる被告森田に交付すべきであり、同交付の事実があるまで、本件請求に応ずる義務はないというのである。

本件証拠により認定した限度においては、前記原告と被告小寺間の代物弁済の予約が、いわゆる精算的代物弁済を予定した予約であることは右被告森田の主張のとおりであると考えられるのであるが、精算的代物弁済であっても、その目的物件の処分と精算手続に先立って、同物件の所有名義は予約完結権の行使により、直ちにその行使者たる原告の所有に帰属すべきである。しかるところ被告森田の前記仮差押登記は、原告が、右代物弁済の予約にもとづいて本件物件につき経由した前掲所有権移転請求権の保全の仮登記の後になされたのであるから、原告の本件物件所有権の取得に基づく右仮登記の本登記手続に同意する義務がある。

結局、被告森田としては、被告小寺が原告に対し有すべき精算金返還請求権債権に対し権利行使すべきものである。

五、以上のとおりで、原告の被告小寺に対する本訴請求は、本件物件につき本登記手続を求める部分において正当であり、これを認容すべきであるが、その余の部分は失当として棄却すべく、原告の被告池上に対する本訴請求は、右本登記手続に対する同意および本件物件の明渡しと昭和四一年一月一〇日以降右明渡までの一ヶ月金四五、〇〇〇円の割合いの損害金の支払いを求める部分は正当として認容すべきで、その余を失当として棄却し、原告の被告楊、同森田に対する請求は、いづれも正当として認容すべきである。よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言については、金員支払いを認容した部分については相当として同法一九六条一項を適用し、その余については失当として採用しないこととする。よって主文のとおり判決する。

(裁判官 萩尾孝至)

<以下省略>

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